初キスはレモンの味とか言うけど、普通に無味無臭だった記憶のくうねです。
なんならその甘酸っぱい思い出はカムカムレモンを凌駕するほどの純愛のピュアラブストーリー話。
もう世の厳しさを知ってセコくて汚い大人になるとそんなものは二度とできないと思うと酒に逃げたくなる。
話は変わりますが、僕のようなスクールカースト下位層の陰キャの地底人が「グループ作って~」と言われたらオロオロしてしまうのが僕の常というもんです。
いつぞや通ってた教習所では応急救護講習があり、人工呼吸と心肺蘇生の講習が必須です。
「当日は専用の教室でやるから間違えないでね」と散々釘を刺されていたのに僕はナチュラルに教室を間違えました。
何食わぬ顔で座学の教室に座ってたのですが、「今日は確か人工呼吸と心肺蘇生の日だよな…」と思い出したのが授業開始1分前。
教習所の授業は1秒でも遅れたらもうその講義は受けられないので、慌てて荷物をまとめてドロン!!
座学の教官とドア付近で鉢合わせ、フェイントのかけ合いになるも、覇王色の覇気で圧倒してなんとか滑り込みセーフ!
が、この特別教室、なんと土足禁止。
そういえば「土足禁止の教室だから靴下履いてきてね」と言われていたのを今思い出し、焦る僕。
その時の季節は夏。ミンミン、ジージーと蝉が婚活パーチーを惜しげもなく披露する季節。
その日は教習車に乗る日ではなかったのでサンダルを履いてました。これでもかというスタイリッシュさ。見習って欲しいくらいだ。
もうね、意を決して「靴下履いてません」って教官に言うしかなかった。最悪また今度の時間で受ければいいや。って思った。
「じゃあ、そこのスリッパ履いて~」ってさ。
アザーーーーッス!!!
なんとかこの危機を脱した僕は座れる席を探す。教室を見渡すとパイプ椅子20席ほど並んでるだけ。机もナシ。
どうやら書く作業はないので机は置いてない様子だった。
しかも席があと少ししかない。受講する生徒数の数だけ椅子があるだけ。
なんとか空いてる左一番後ろの席に座ると、
「まず初めは飲酒運転の事故被害者のビデオを見てもらいます」と教官。
内容は飲酒運転で娘えお失くした父親の涙ながらに受けるインタビューの映像。
「飲酒するくらいなら車に乗るな…もう娘は戻ってこないんですよ…」
と話す父親をぼけーっとしたアホヅラで眺める僕。人間の血が流れてないサイコパスなので共感ができないどころが感情移入も難しい。
「ほ~ん」と思っていると、ビデオが終わる。
教官が「みなさんはどう思いますか?」と言いながら生徒数名を指していく。
「飲酒運転は悪いと思いました」なんて真面目ぶって答える男子大学生や、
「なんかー、その、娘さん?がー、かわいそうだと思いましたー」と語尾を伸ばすアホそうなギャル女が答える。
そのどんな答えにも「そうですね~」ってニコニコしながら頷いてる教官が、
「まぁ、僕はこんなの見ても何も思わないんですがね」と締めのコメントを言い始めて、
まじかよ!それはもっと飲酒運転の危険性を煽るのが仕事じゃないの!?!?って思った。
実際、僕も何も思わなかったけどさ。
だいたい50分のビデオだったんだけど、人間が一人死んだくらいでなに騒いでるの?
コナンの映画だったら50分で3人くらい死んでるし。全然甘いでしょ。
そしたら「じゃあ次は人工呼吸と心肺蘇生の講習です。でも人形の数に限りがあるので3、4人のグループに別れてください」とサイコパス教官。
出た出た、グループ作るやつね。おっけー。おっけー。俺の苦手なやつ。
思えば中学の球技大会のバスケも、高校の体育のソフトボールも戦力として数えられなかった余り物の僕には慣れっこなわけで。僕の余り物には福どころか厄が付いてます。
でも、勇気を出して隣に座ってた女子大生っぽい子に「あ、あの、、、一緒にどうですか?」って聞いた。
でも、その女子大生、隣と前に友達がいるらしく、「うちら一緒でよくない~」って話してるときに僕が割って入ってしまって、いっきに気まずい雰囲気に。
みんなでアイコンタクトなんて始めちゃってさ、「なにこいつ?ちょーやばくない?てか誰??www」って言ってる心の声が聞こえてくる。
前に座ってた男子の友達も「いや、お前空気読めよ…まじで…ほんとないわ…」みたいな顔してるし。
そしたら隣の女子大生が「え、、あっ、いいですよ………え、いいよね?」とか答えてくれるの。マジ天使。真顔だったけど。
それで、僕が入ったことで2対2のグループになったんだけど、明らかに僕だけ蚊帳の外。
そりゃあ、ナンパもしたことないダサくてモテない男子大学生が華の女子大生様にお声をかけるなんて銃殺刑ですよ。
3人仲良く雑談してるんだけど、僕にだけ話しかけてくれないの。
で、サイコパス教官が「じゃあまずは私は手本を見せますので、グループで順番にやってください」と、説明開始。
「まずは意識があるのか確認します。肩を叩いて、もしもし、大丈夫ですか?と声をかけます。」
みんな、へぇ~って。チョー興味なさげ。
そしたら教官が「まぁ、爪押したり、胸骨をグリグリした方が簡単なんですけどね。ハッハッハ!」ってまたサイコパス発言。
でも、 これはあくまでも講義なので教えられたことをやらないといけません。
「では、順番に始めてください」と言われ、僕のグループはシーンですよ。
僕がいることで楽しく人命救助をするはずだったのに。仲間たちだけでエレベーター乗ってて他の人が乗り込んでくると黙ってしまうあの空気。
そして僕に注がれる視線。
ジャニーズでもない僕がこんなに視線を集めるなんて恐れ多い限りなのに。
だから空気を読んで、「じゃ、じゃあ僕からいいですか…?」 って言ったら全員「あ、はい」って。何この空気、つれー。
「もしもし、大丈夫ですかー!?もしもし、大丈夫ですかー!?」
人形の肩を叩くその姿はまるで海猿。映画で見た伊藤英明の動きを完全にトレース。
渡哲也も驚きの演技力ですよ。加藤あいも「大輔くんじゃなきゃダメなの!!」(THE LAST MESSAGE 海猿より)って言うくらい。
でも、グループの誰一人として見てないの。全員教科書ガン見。チョー自由。オールフリー。
アフリカの貧しい子供たちが行きたかった学校に初めて行って、教科書を目にしたようなガン見。もうガンつけてるの。
ふと教官の方を見ると「うんうん、よくやってるね(*・ω・)」みたいな顔して見てくるのが逆につれー。
そりゃあ渡哲也がここにいますからね。だから、もう腹くくって最後までやるしかないわけで。
僕の番が終わったら、残りの3人でワイワイ楽しくやってましたよ。ええ。僕はずっと体育座りで空気になってました。空虚を見つめてた。まじつれー。
で、次は人工呼吸と心肺蘇生。直接唇を着けるのは感染症などのリスクがあるというので、フェイスシールドとかいうビニール製の器具を一人ずつ配られる。
それを使って人工呼吸をするんだけど、いくら人形とはいえ、顔が近い。近すぎる。人見知りな僕がこんなに近く人の顔を見たのは何年ぶりか。
すごく緊張する。ましてやオレンジの服を着た囚人みたいな人形にキスなんかしたことないし。
でも、順番的に最初は僕なので、仕方ないわけで。
教官が「心臓マッサージは疲れるので、2人でやっても構いません」って言ってるけど、どうせ僕は独りですよ。
気道確保してフェイスシールドを人形の口にセットして息を吹き込もうと口を近づけるが、緊張して咳払いしたらむせて咳をしてしまう僕。
冷房が寒いのと眠くてあくびをしまくってたので鼻水がズルッ!!!!と噴射してしまう。人形の顔が鼻水だらけ。
もうね、死にたかったね。「僕は本来この時代にいてはいけない人間なんだ…またいつかどこかで…」って光の粒となって消えたかった。
他の三人は「えっ、うわ、なに……えっ、キモ……」みたいなにアイコンタクトしてるし。
当然のようにティッシュとか持ってなかったから手でバレないように拭うしかなかったよね。
人工呼吸と心臓マッサージを30回。それを人形に接続してある機械のランプが着くまで続ける。30回がすごく長く感じた。それどころか同様しすぎて数えてなかったし。周りのグループが終わり始めたのを確認してから辞めたよね。
あと、人形の顔の右半分が鼻水でちょっとテカってて泣いてるように見えた。
泣きたいのは俺だっつーの。つれー。
で、もう女子大生たちはドン引きですよ。自分たちがこれから人工呼吸するのに人形の顔は鼻水で汚染されてるわけ。普通にバレてた。隠蔽工作が失敗に終わった。トムクルーズだったらもっと上手く処理できたのかな。そもそもトムクルーズは鼻水を噴射しないと思う。世界中探しても人形に鼻水噴射するのは僕くらいなもん。
グループの女子大生は「もう、うちらやらなくてよくなーい?」とか言い始めてる。
いや、聞こえてるし。つれー。って思ってたら、
「一緒にやってもらっていいですか?」って女子大生に言われて、
「え、あ、はい…」って返事したよね。うん。
「じゃあ、心臓マッサージするから人工呼吸して」って真顔で言われたわ。急にタメ口で言われたのがまた怖い。あー、自分よりカーストが下だと判断すれば何してもいいと思ってるタイプの人ね。おっけー把握。つれー。
男子大学生はまだ教科書ガン見。もう一人の天使は終始苦笑い。つれー。
で、合計4回やったよね。人工呼吸。人形とも友情どころか愛情の芽生えさえ感じたもん。人形も顔に鼻水を噴射されて同じ男に4回も人工呼吸されるなんて思わなかったでしょうね。最後の方なんか酸欠気味になってた。
女子大生たちは教官から「心臓マッサージ疲れるのに偉いね!」って褒められてた。
いや、僕のせいなんですよアハハ…。
つれー。